踏みしめると、瑞々しい草の香りがした。
自治会で使う、七夕の笹をとりに、藪の中に入った時のことだ。
「ねぇ、なんか草のいい香りがするね」
色でたとえれば若草色かもしれない。青くツンとした香りは、どこか懐かしさを感じさせた。
しかし、私の言葉に立ちどまり、辺りの空気を胸一杯に吸い込んだメンバーの一人は、なぜかふいに笑いだした。
「草のいい香りって、これドクダミの匂いじゃないの?」
足元を見ると、確かに草にまぎれ、ドクダミが生えていた。懐かしい香りだと思ったのは、庭で草むしりをした時にドクダミを摘み、同じ匂いを嗅いでいたからに違いない。
笑い転げる彼女を見ながら、私はこの時、自分の嗅覚のあやうさを知った。
そして家で、夫にこの話をすると、ケラケラと笑われた。
「おまえ、変な匂いが好きなんだな」
「でもドクダミ茶ってあるよね? 薬草だし、人を惹きつける匂いなんじゃないのかな?」
食い下がるが、夫は笑うばかりだ。多くの人にとって、ドクダミの香りは、よい香りとはいえないのかもしれない。
庭に出ると、花壇の脇や塀の隙間にドクダミが生えている。指で摘まむと、あの青くさい香りが広がった。
やっぱり、ちょっと好きな香りだった。
白い花に見えるのは苞(ほう)で、そこから伸びている黄色い部分が花穂らしい。一見すると地味な花だが、白い4枚の苞を従え、天を見上げる姿は、どこか潔くさえある。
ドクダミは、摘んだ相手に自らが薬草だと伝え、役立つために、独特な香りをその身に纏ったのかもしれない。切られたり、抜かれたりした時こそが自分の出番だと、彼らはきっと知っているのだ。逞しく、清らかに咲く花に、私はドクダミの誇りをみた気がした。