ごみ焼却場からは花壇の土のにおいがした。それは父の匂いでもあった。
私の父は産業廃棄物処理業をしている。毎日ごみをごみ収集車の中に放り込み、決まった回収ルートを辿る、いわゆる街のごみ屋さんである。
幼い頃「ただいま」と父が家のドアを開けるのと同時に私が抱きつくと、湿った腐葉土のような匂いが私を包んだ。それが父が家に帰ってきた合図だった。
少し熱が出て幼稚園を休んだ日なんかは午前から昼まで父の仕事に連れて行ってもらえることがあった。ごみ焼却場に着き、父がよそのおじさんと外で話している間、助手席に座って待っていると5センチほどわずかに開いた窓の隙間を風が入り込む。通った風も、おじさんも、みんな私が大好きな父と同じ匂いをしていた。
小学校3年生になり、初めての社会見学を迎えた。見学場所はあの焼却場だった。焼却場に何度も来たことあるのは学年で私だけで、少し得意な気持ちになったことをよく覚えている。焼却場入り口に近づくと柔らかい土に似た、あのしっとりしたにおいが強くなってくる。お父さんの匂いがする! そう言いかけたとき、私より先に誰かが「くっさ!」と声を上げた。それに続けてまた別の誰かが「くさーい」と言う。強風が吹きつけた森のように立て続けに生徒たちが騒ぎ始める。そんなこと言いませーん、はい静かにしてー! と引率の先生が全体を宥めると森はしーんと静かになった。「くさくない!」と怒ることも「このにおい好きだけどな」と言うこともできず、私はただ呼吸を繰り返すほかなかった。
地元を離れ、今は夫と2人で都市部に暮らしている。最後にごみ収集車の助手席に乗せてもらったのは何年前だったろうか。この街には飲食店とマンションが立ち並び、焼却場がある山がどこの方角にあるかすら分からない。
夜遅くに夫と散歩をしていると、巡回中のごみ収集車とすれ違うことがある。過ぎ去る車の残り香が鼻をかすめるたび、ごみのにおいが染みついた作業着を着た父の姿を私は一人で思い出す。