とうとう90才になった毎日はこんなものです。3回の骨折で歩けなくなりましたが、リハビリを頑張り押車で動けるようになり、すると緑内障で右目を失明、これは落ちこみました。でも、これも生きてることのあかしと納得して、猫との暮しです。
つらつら思うのは、若いときはこれから先にやってくるだろう楽しいことばかり考えてました。今は昔のことばかり思い出して、なんとたゞいま高校3年です。進学クラスの教室は静か、お喋りも笑いもなし、そんな教室で、私は赤点ばかりの成績の自分が情なくてため息ばかりついています。
そしてこれはある日の朝の教室の出来ごとです。なぜか私はひとりでした。すると、男子が入ってきました。青い小さな花をさした丸い花瓶を捧げるようにもっていました。そして黒板の傍の棚に花瓶をおきました。
前から花瓶には気がついていました。それが今、入ってきた男子がやっていたことだと知りました。「タモン。花瓶の花、あんただったんだ」私の声にタモンは驚いて気をつけしました。青い花の匂いをかぎました。
「匂いしないよ」すると、タモンは「匂いや香りのない花はない」と怒ったようにいいました。「これ、なんて花よ」「露草、知らないの」知りませんでした。「買ってきたの」
「道端にいっぱい咲いてるよ」
こんな可憐な花が道端に咲いてるなんて驚きでした。「花をいけるなんて、タモンは優しいんだ」ちょっとからかって顔を覗きこむと、タモンは耳まで赤くなりました。そして「花瓶があったからだよ。誰にもいうなよ」いってうしろの席にいきました。
進学クラスの息苦しい教室のみんなは花瓶の花には気がついていなかったと思います。
花は白、赤や黄色になりました。そのたびに私はタモンを振り返り小さく手をふりました。タモンは本に顔をかくしました。タモン、多門正寿君、90才の君は元気ですか。