高校生のとき、異文化交流サイトでハンガリーの女の子と知り合い、文通を始めた。あるときお互いの国のレシピを交換しようという話になった。私は辞書と格闘し、肉じゃがのレシピを英訳した。ハンガリーのスーパーには昆布やかつお節はないだろうから、顆粒だしを手紙に同封した。
数週間後、郵便受けにハンガリーの友人からの手紙を見つけた。手紙の最後のほうにグヤーシュという料理のレシピが書いてあり、パプリカパウダーも同封されていた。パプリカパウダーの赤い袋はつるつるしていて光をよく反射し、クリスマスのかざりのような特別な雰囲気があった。
私は材料を買いにスーパーヘ飛んでいった。玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、トマトにパプリカ、牛肉……。買いものかごに入れた材料は、拍子抜けするほどごくふつうだ。見慣れないのはセロリくらいで、ほとんど肉じゃがと似たようなものだなと思った。
家に帰ると早速グヤーシュ作りに取りかかった。パプリカパウダーの袋を開けると、独特の深みがあるこうばしい香りが感じられる。肉じゃがとほぼ同じ材料を、これと一緒に煮込むなんて。味の想像がつかなくて一瞬怯んだ。
決心してレシピ通りの手順でパプリカパウダーを鍋に入れると、たちまち台所に香りが広がった。お馴染みのにんじんやじゃがいもが、赤茶色のスープのなかで新鮮に見える。どきどきしながらひと口味見をした。食べたことのないふしぎな、それでいてなぜかほっとする味だった。
ハンガリーの友人も肉じゃがを作って手紙に感想を書いてくれた。最初はだしの香りにぎょっとしたと言う。「魚介のだしで肉を煮込むのに驚いたけれど、おそるおそる食べたらとてもおいしかった。肉じゃがとグヤーシュはなんだか似ているね」。彼女の言葉に、思わず笑みがこぼれた。
今でもときどきグヤーシュを作ることがある。パプリカパウダーの香りが広がると、ハンガリーの友人と、あのころの好奇心いっぱいだった自分を思い出す。遠くハンガリーの彼女の台所にも、ときどき肉じゃがの香りが漂っているだろうか。