玄関の方から、どん、どん、と重たいものを床に置く音がする。なにごとかとゲーム機を置いて階段を降りると、父が、おおきな米袋を車のトランクに積み込んでいた。中学生の兄は、ふんっと得意げに積み込みを手伝っていて、母はそれをにこにこ見ていた。
めずらしく助手席に乗せて貰う。2列目の座席は米袋のために、倒してトランクとくっつけてある。今思えば、力仕事においてなんの役にもたたない小学生の娘を、父はわざわざ連れて行ってくれていた。そのくらい、私がそこに行きたがったのだ。
スーパー裏、ちょっとひらけているところに突然それがある。コイン精米機だ。
ドアを開けると、前の人がさっきまで居たらしく、あったかくて粉っぼい米の香りがワっと来た。
父が小銭を入れ、投入口に玄米を流し込む。程なくして、白くなった米がぱらぱらシャワーのように出てくる。出口に手を出してみると、熱い生米がてのひらを打って、心地よい痛みがあった。何粒かゆびの間に纏わりついてくるので、もう片方の手でぴんと弾いてタンクの中にきちんと落とす。ペダルを踏んで下にセットしていた袋に米がたっぷり溜まる。「楽しみね」と父が言った。
大学進学を機に田舎を離れて、ひとり暮らしをはじめた。新しい街にはコイン精米機なんてどこにもなくて、人は多いのに心做しか肌寒かった。
−−これから私は、やっていけるのか。
不安な夜、実家から持ってきた米を炊いた。しゃくっと米を研ぐ感触は、地元のぬくみを思い出させた。炊飯器をぱかっと開く。湯気と共に良い香りが立ち上り、顔を包む。ちゃんと食べて頑張ろう! と奮い立った。
大学3年になった今、定期的に実家に帰るようにしている。米を運ぶ父は腰を気遣うようになり、兄は彼女の家に入り浸ってなかなか顔を出さなくなり、母はにこにこのまま仏壇の写真になった。
寂しくて崩れそうな日もある。でもあのコイン精米機は、相変わらずあの辺鄙な場所であたたまっている。