香・大賞 kaori taisho

池坊

池坊 専好

(華道家元池坊次期家元)

鷲田 清一

鷲田 清一

(哲学者)

中田 浩二

中田 浩二

(元読売新聞文化部長)

畑 正高

畑 正高

(松栄堂 社長・実行委員長)


審査風景から 
―― 新しい時代の 香りエッセイの可能性を感じて ――

 第34回「香・大賞」は、応募総数が2,366点で例年と大きく変わることはありませんでしたが、題材やテーマ、そして職業からうかがえる応募者像にいつも以上の多様さが感じられました。
 平成最後の応募期間だったので、この時期に何か自分の言葉をエッセイに残しておきたいと願う人の姿が想像できました。
 その平成は、地震、水害、猛暑、大雪と多くの自然災害に見舞われた時代でもあり、それは平成最後の年まで続きました。その体験の渦中にあって感じた香りについて書いた作品も多数寄せられました。
 女性の応募者数が男性の倍近くあり、定着している感がありますが、最近は50代以上になると、男性の応募者が増え、70代、80代では女性を上回っています。現代社会の一面を捉える現象とも言えそうです。60代以上の定年後を送る応募者は、ウォーキングを日々のルーティンにしている人も多く、そこから季節のさまざまな香りを感じ取って書いたエッセイも見受けられました。
 その一方で、注目されたのは若い世代の躍進です。特に10代の応募者の作品にこれまでにない表現の質の高さがあり、昨今の探求型教育の賜物ではないかと見られました。スポーツや将棋の世界ですぐれた活躍をする10代が登場していますが、エッセイという文章表現においても同様の動きが起こっているとしたら興味深いことです。
 審査においては、匂いや香りを対象とする領域が年々広がっていることに驚きがありました。その結果が金賞作品における「うんち」や「鉄が焼かれる匂い」など、どちらかというと避けたい匂い、もしくは嗅覚や味覚を失う(=ない)状態など、香りとしてはマイナスの現象、普通はあまり注目しない匂いを取り上げているので、それを伝えるかなり書き込んだ文章が評価された側面があります。その一方で、とても淡々と、素直に香りと向き合った作品にも味わい深いものがあり、共感や感動を呼ぶ理由は一様ではないところが、香りエッセイのおもしろさなのかもしれません。
 また、若年世代のがんばりには、彼らが「自分」を点ではなく、長い時空軸の上で捉えているところに香りと共振できる資質を感じ、今後に期待するという意見もありました。
 そして、今回は、現役、元現役ともにさまざまな専門分野の学者、医学関係を含む理系の研究者や発明家、またはさまざまなジャンルのアート活動をする人々からの応募もあり、エッセイを書く層の広がりが感じられました。
 令和の時代に入り、香りエッセイは益々進化(深化)、多様化し、新しい楽しさを見せてくれる予感がします。