香・大賞 kaori taisho

池坊

池坊 専好

(華道家元池坊次期家元)

鷲田 清一

鷲田 清一

(哲学者・京都市立芸術大学理事長兼学長)

中田 浩二

中田 浩二

(元読売新聞文化部長)

畑 正高

畑 正高

(松栄堂 社長・実行委員長)


審査風景から 
―― 香りエッセイで 平成をふり返り 昭和もよみがえりました ――

 第33回「香・大賞」の募集期間中には、平成30年の今年が平成最後の年になることが知らされました。その影響もあるのでしょうか、この30年、そして昭和をふり返るような内容の作品も多く見られました。
 それは書き手にとっては子どもの頃に帰る試みでもあり、70代以上の方であれば戦中、もしくは戦後間もなく、50〜60代は昭和30〜40年代といった時代から香りをたぐり寄せた作品もありました。
 しかしその、今は昔となった香りを書きながらも、このエッセイコンテストでは2018年を生きる読み手の共感を得ることが求められます。応募作品一作一作からは、今を生きる言葉の強さが感じられました。審査会では「対象となる香りがとても細分化されてきていて、香りのイメージのパターン化がなくなってきた。エッセイの表現のレベルがじわじわと高くなっている」という評価がありました。
 本賞にはさまざまな世代の方々の応募がありますが、今回、金賞受賞者が90代の女性だったように、まさに「人生百年時代」、高齢の方の奮闘ぶりにも目を見張るものがありました。「経験を積んで来られた方の圧倒的な存在感、強さ、しなやかさを感じることができた」という審査員の感想も。
 一方で、10〜20代、まさに平成生まれの世代の作品には、ソーシャルメディアが進化した時代ならではの生き方や感じ方が窺えるような作品との出会いもあり、平成という時代の空気感の一端が伝わるようでした。
 ともすれば、人との交流がデジタルツールのみで完結できてしまう現代社会において、香りが人と人をつなぎとめる役割を持ち始めているのではないかという見解も語られました。「香りを通して人と人が共に響き合う作品がとても印象的だった」と。
 香りを言葉で表現するこのエッセイコンテストが、30年以上の時を経てもまだ新しい発見があると感じられるところに、香りのもつ本質が見え隠れしているのではないでしょうか。香りには時代を映し出す語り部の役割があるのかもしれません。
 香りの声に耳を澄ませれば、エッセイの可能性は無限大に広がる、そんな期待をもつことができた今回の「香・大賞」でした。