香・大賞 kaori taisho

池坊

池坊 専好

(華道家元池坊次期家元)

鷲田 清一

鷲田 清一

(哲学者・京都市立芸術大学理事長兼学長)

中田 浩二

中田 浩二

(元読売新聞文化部長)

畑 正高

畑 正高

(松栄堂 社長・実行委員長)


審査風景から ―― 香りエッセイに エンターテインメントの萌芽 ――

 「香・大賞」は、30年以上にわたって香りという目に見えないものを、エッセイという言葉に刻んできました。第32回も2,000点以上の新しく生まれた〝香りエッセイ〞が届けられ、言葉による香りの表現を競いました。
 30年の時を戻せば、今回、最も応募数が多かった60代が30代に若返ることになり、その個々にたどった人生、その歩みのなかで感じた香りは他人には容易に想像できないものでしょう。10代、20代の応募者にとっては、生まれる前から行われていた「香・大賞」。親世代、祖父母世代に交じってエッセイにチャレンジしました。
 今回の最終選考会では、選考に残った作品のエッセイとしての質が益々高くなっていることに驚く声が上がりました。「こんなところから香りを感じているのかと、作品の斬り込み方がいろいろで、新鮮だった。しかも奇を衒(てら)わず普段のシーンからすぅーっと入っていく文章表現に感心し、手垢のついた言葉でなく自分の言葉で香りを描き出そうとする姿勢に好感がもてました」。
 内容としては、人間関係のなかに香りをとらえた作品は一貫して多いのですが「香りは直接的な存在でなく、人間関係において動作や言葉ではうまく行かないことも、曖昧模糊(あいまいもこ)としながら、人と人の間に入って確かにつないでくれる存在であることを作品から教えられた」と評しました。
 そして、今回の大きな特徴のひとつは、審査会でいくつかの作品から笑いが引き出されたことです。
 とても親しい人との死別と絡んだ香りは、悲しく読み手にも強い印象を与えます。その香りは失った人を心の中でよみがえらせる力があり、香りエッセイに欠かせない香りの特性といえるでしょう。
 現在の高齢社会においては、これまで以上にそんな香りに出合う機会が増えているのですが、せめて気持ちだけは悲しみすぎないようにと思う書き手の作品のなかにほっと救われるエッセイもありました。
 さらに、悲しみ、不安、迷いなど、ネガティブに思える感情と接しながら、それを反転させるように笑いを生み出したエッセイにすぐれた作品があったことは、今回の大きな収穫といえます。
 それは応募者の作品全体のクオリティが高くなっていることを示す現象でもあります。
 広く募った香りに関するエッセイから、エンターテインメントの萌芽が感じられました。