香・大賞 kaori taisho

第27回「香・大賞」

金賞

『 一杯が、いっぱい 』
琴音 みう 44歳 会社員 山梨県

 最近、食後に洗う食器がめっきり減ったように感じていました。
お茶碗を使わず、丼にご飯とおかずを盛る小学6年生の息子。私が
「洗い物減らしてエコよ!」
と諭してきたからかもしれませんが、どうも様子が違うような……。炊飯器におかずを入れて食べようとした時に私は「待った」をかけ、極端に食器を使わなくなった理由を問いました。
 今年の5月頃から、東日本大震災の影響で数組の家族が近くに疎開しています。町内会では、ささやかな歓迎会を開催。バイキング形式で取り皿が用意されたものの、使われたのは丼ひとつ。そこにご飯を盛り、惣菜を足し、サラダやフルーツを添えていました。避難所での慣習でしょうか。水道が使えない地域では食器にラップを敷いて食べるのだとテレビで見たことがありましたが、本人の口から聞くと現実味が増します。
 盛況のうち、味噌の香りに引き寄せられるように注目を集めたのが『ほうとう』です。幅広の麺を使い、野菜といっしょに煮込んだ山梨の郷土うどん。ある年配の方が、ふるさと岩手の『ペロッコうどん』を想い起こしていました。麺の幅がほうとうの数倍はあり、つゆが異なるものの
「うどんに味噌ってのもいいねぇ。あったかい香りがする」
と言われ、嬉しく思いました。支給されたカップ麺を食べた後、そのスチール容器にスナック菓子やパンが盛られたことがあるとも。丼には麺もつゆも残っていませんでしたが、味噌の香りが微かに漂いました。
 歓迎会以来、息子は避難所のことを気にかけていたのでしょう。下の階に住む奥さんが、過剰になっていた息子を諭してくれました。
「シンちゃんも大人になったね。でもね、あんたがお皿使わないと、あの子らも遠慮して使えないんだよ。今度は色んなお皿を用意して、みんなで分け合って食べてみらぁ」
 地域の器は色んな人の話で一杯になり、私の胸は感謝の気持ちでいっぱいになりました。