香・大賞 kaori taisho

第26回「香・大賞」

銀賞

『 “新米家族”の香り 』
奈良 由美 43歳 会社員

 10歳の息子に、7歳の娘と私の3人暮らしが続いたが、新しい家族が増えることになった。尚志さんが家にきたのは、その時が初めて。子供に言い含めてはいたが、実際に“大人の男の人”を前にすると緊張が走った。
「……キミたちのお母さんとはお友だちです。これからも、よろしく……」
 五百円玉を握りしめていた息子がつぶやいた。(これからもって……)
 妹は兄の手をとり、スーパーへ向かった。
 私達は事前に打ち合わせてはいた。
「ご挨拶したら二人で買い物ね。タマゴよ」
 我が家では特別な日に、娘と共同制作のオムライスでもてなすキマリがある。誕生会や入学式、親戚がきた時もそうしていた。
 二人きりになってから話をし、改めて家族のことを誠実に考えてくれていたことがわかった。ただ、子供達が帰ってこない。10分、20分……(徒歩で3分のところなのに)
 炊飯ジャーが湯気を吹き始めると、私は堪らず彼を残してサンダル履きで外に出た。玄関の少し先で二人が座り込み、レジ袋の底にたまった黄色の液体を睨んでいた。
「お兄ちゃんが急ぐからいけないんだよ。転んで割っちゃった」
と泣きっ面の娘。
「ママを一人きりにしたくなかったから……」
 玄関をあけると、彼の笑顔とご飯の香りが迎えてくれた。
「おかえりー」
 私達の家なのに、なんだか嬉しくなった。割れた卵の入ったケースを差し出す娘に
「大丈夫だよ。殻をとれば使えるよ」
とひと言。
 ピー! ピピッピピッ…… ご飯が炊けた。いつもは人数分だが、およそ10個の卵をフライパンに流し込む。ジュワーッと広がる食卓の香り。殻取りに熱中した息子と尚志さんも自然に顔を近づけ仲良くなっていた。ダイナミックな新作に皆が微笑んだ。お味噌汁も4人分。他人という殻を破り、オムライスのようなふんわりした家族となった瞬間だった。