香・大賞 kaori taisho

第25回「香・大賞」

銅賞

『 汗の香り 』
LE THI LANH(レー ティー ラン) 22歳 大学生 新潟県

 農民たちの汗は瘦せた田畑に落ちて、やがて稲や芋の新緑が覆うときが来る。私たちの周りの立派な建物も労働者の汗に濡れている。早朝届く新聞からも、配達員の汗の匂いがほのかに残っている。どんなものからも、働く人々の汗の匂いが伝わってくる。
 私の故郷ベトナム北部は干ばつの時もあれば、洪水も多く、自然に恵まれないが、人々はいつも「力を出して汗をかけば、絶対に稲穂も芋も出て来る」と信じて働いている。私の父母の肌も、他の農民のように強い陽射しや雨風のために、真っ黒くなってしまった。父母は毎朝私がまだ起きないうちに田んぼに出て、暗くなるまで働いていた。中学校に入ってからは両親を手伝うことになったが、まだ洗濯機がなかったので、父母の衣服は私の手で洗っていた。洗濯のたびに、いつも父母の苦労の香りを感じた。それは、土地の味の酸っぱさ、人の力の塩辛さ、雨の甘さ、草の苦さが混ざってできたような香りだった。私が生まれてから今まで食べてきた物や、もらったお金にも、その香りをいつも感じてきた。私の肌にも両親の汗の匂いがするように思う。
 ベトナムでも日本でも、汗というと「汗臭い」という言葉があるように、良い香りだと思われていない。しかし、故郷を遠く離れて、日本にいる私の夢の中に懐かしく香ってくる父母の汗の匂いは、私の生きる力になっている。
 人の成長は両親の汗だ。誰もが両親の最も価値ある存在であり、最も素晴らしい結晶だ。だから一日一日を大切にしなければならないと思う。
 世の中は、巨大な建造物から針のように微細なものまで、人々の汗からできている。「汗の香り」は労働の価値と両親の有り難さを私たちに教えてくれる。だから、どのようなものでも、作った人々の苦労を感じ、大切に使わないといけないのだろう。皆、私たちのために川ほど汗をかいて作ってくれたのだ。彼らの「汗の香り」を感じるたびに感謝し、それを受け継ぎ、未来の人々に伝えていきたいと心に刻んでいる。
 今日も両親の香りを思い出し、私の命を大切にする一日にしよう。