香・大賞 kaori taisho

第24回「香・大賞」

金賞

『 米粒のにおい 』
多賀 多津子 71歳 主婦 福岡県

 お盆休みを過ごした夫の生家を去る日、バス停まで送ってくれた義母が、ティッシュに包んだお金らしいものを私のポケットにそっと入れて言った。
「あんたは今年もその服で帰って来られたがけぇ。あんちゃん(夫)は長男だったので甘やかして育ててしまったがや。苦労をかけるねぇ。かんにんしてくだはれ」
 義母は私に服を新調するようにと、ポケットにその代金を入れたのであった。
「違いますおかあさん、私は服装に無頓着なだけなのです」
 慌ててそれを返す私に義母は「かんにんしてくだはれ」を繰り返し、二人はティッシュのお金を何度も返し合った。そんなやりとりを苦笑いで見つめていた夫が
「せっかくだから、貰っておきなよ」
と私に言った。
「そう、そう、少しだけど取っとかれ」
 義母は笑顔で応え私の手にそれをギュッと握らせた。
 バスに乗り込むと、小さな体で懸命に手を振る義母の姿が涙でぼやけた。
 ティッシュの中には一万円と、しわの目立つ千円札が3枚入っていた。 多分、持ち合わせていた全ての札を包んだのであろう。
「おかあさん……」
思わずつぶやいたとき、ティッシュの端に数個の米粒が付いているのに気づき、かすかなお酢のにおいがつたわった。昨夜、義母は夫の好物のちらし寿司を作ってくれた。その残りは小鉢に盛られ、ティッシュをかぶせて流し台の隅に置いてあった。私たちをバス停まで送ろうと台所から急いだ義母は、あのティッシュでお金を包んだのであろう。バスに揺られながら夫に「ほら、おかあさんのにおい」と差し出すと、夫は何も言わずにティッシュの米粒を指でつまんで食べ、少しだけ頬をくずした。
 遠い日の思い出のにおいは、いつまでも鮮やかである。