香・大賞 kaori taisho

第22回「香・大賞」

銅賞

『 香の部屋 』
黒衣 威人 24歳 無職 埼玉県

 友達が逝った。真夜中に酔っ払って車で箱乗り。馬鹿みたいに陽気な笑い声を上げたまま、電柱に頭を木っ端微塵に吹っ飛ばされた。笑えない最期だった。
 あいつの部屋は、いつ行ってもお香の煙と匂いで頭がクラクラした。俺がそう文句を言うと、あいつは新宿で大量に買った大麻柄のお香のパッケージを自慢げに振りながら「こいつのせいさ。焚くとブッ飛ぶんだぜ」と言ってニヤリと笑った。――馬鹿言うな。そんなモン、普通に売ってる訳ないだろ。焚き過ぎなんだよ、ただ単に。
 中学の頃からそうだ。自分に貼られた「ワル」のレッテルが大好きで、悪いと言われる事は何でもやりたがる。髪を染めてピアスを開けて、酒を呑んで煙草を吸って。何でもない事で喧嘩して。その癖、人一倍友情に厚い。不良仲間の高校受験の結果が心配で、掲示板に発表を一緒に見に行って、一緒に泣いて、その日が自分の受験日だって完全に忘れてた。
 お前は昔、あのお香臭い部屋で煙草を吸いながら、いじけたみたいにボヤいたな。
「うちのオカン、俺の事嫌いなんだよ。そりゃそうだよな。中卒でフラフラしてさ。絶対俺が死んでも泣かないぜ、あの女」
 ――馬鹿言うな。泣いてるじゃねぇか、お前のオカン。酷い顔だぞ。顔中溶けた化粧でぐちゃぐちゃだ。
 おい、分かるか? この式場な、通夜だってのに線香の匂いじゃねぇんだぞ。坊主のジジイが苦笑いする位に、お香臭ぇんだ。お前のオカン、お前の部屋にあったお香、全部ここで焚きやがった。参列した奴、みんなびっくりしてんだぜ。ほら、お前のオカンが非常識扱いされちまうから、いつもの調子で来た奴全員に説明してやれよ。
「焚くとブッ飛ぶんだぜ」
ってさ。
 おいコラ。お前の部屋だぜ。みんな来てんだ。綺麗な顔で寝てんじゃねぇよ、馬鹿野郎。