香・大賞 kaori taisho

第33回「香・大賞」

奨励賞

『 師走はわらの香り 』
福田 俊紀(ふくだ としき) 27歳 看護師 大阪府

 年の瀬が迫る頃、普段は埃っぽい小屋が豊穣なわらの香りに満たされる。稲刈りもとうに過ぎた12月。しわくちゃの手で刈り取られた稲わらを束ね、同じ長さに切り、別のわらでギュッと縛る。祖父は、しめ縄結いの名人だった。
 本業はトマト農家。だから祖父の手は収穫期には甘い匂いを、剪定の時期は茎の、青草みたいな匂いを漂わせている。そして師走はわらの香り。年中違った匂いを宿す中で、私はこの師走の手が一番好きだった。
 小学生だった私は、冬休みになるとよく祖父の小屋に足を運んだ。彼はコンテナに腰かけ、いつもと変わらぬ丹前姿で、北風を身に受けながら縄を結っていた。
「じいちゃん、来たばい」
 祖父は私を見つけると、口角を上げた。頬のしわが、より深くなった。
「こっちゃん来て、座れ」
 促されて彼の横に座った。黙々と動く太い指でわらが幾重にも糾われていく。
「俊紀もしてみるか?」
 私の名が呼ばれ「うん」と笑顔で答えた。祖父の真似をして細いわらをいくつか拾った。同じ長さに揃えて束ね、それを捩じる。しかし、力及ばず、緩んだわらは手を放すとバラバラになった。祖父のようにはいかない。
「難しかね」
「そがんたい。一朝一夕じゃでけんばい」
と笑った。
 祖父は毎年十数本しめ縄を結っていて、その中には神社に奉るものもあった。それがいわばメインディッシュだ。直径40センチ強、長さ3メートルに迫ろうかという大きさだ。取り掛かる祖父の目も熱を帯びる。そしてまた黙々と結い始める。力強く、逞しく。
 あれから十余年経ち、神社のしめ縄は、作り親がいなくなった今なお正月の参拝者を迎えている。地元の人しか足を運ばない小さな神社に、荘厳なしめ縄。わらの匂いはすっかり飛んだが、ここに来れば旅立った祖父の、師走の手の匂いが胸の中に漂ってくる。
 天国にも四季があるのなら、今頃またしめ縄を結っているだろう。