香・大賞 kaori taisho

第32回「香・大賞」

審査員特別賞

『 春の姫時間 』
静戸 麻(しづりべ あさ) 61歳 主婦 宮城県

 図書館での生業は、来館する人々の人となりが観え、家族の繋がりが漂い、心の香さえ馨しい人間模様の醍醐味がある。みちのくに届けられた図書館での春の時間を伝えましょう。
 まだ学校は春休み、小鳥がさえずり日差しがまぶしい図書館での心躍る時間。桃色の手編みのカーディガンの女の子と毅然として品格ある優しそうな白髪の老婦人。女の子は、小声で恥ずかしそうに囁く。
「ねぇ、あとねぇ。お姫様の本をかりたいの。どこにあるのかな。探してぇ」
老婦人は、孫の耳元で聞き返すように囁く。
「日本のお姫様のこと」
 女の子は『怪傑ゾロ』を5冊抱え、小学2年生位のどこにでもいるような女の子。桃色のカーディガンの色が頬に映り、花にも増して柔らかく姫のような佇まいである。
 図書館員の紹介で『歴史に輝くお姫様大図鑑』など十二単のカラー本を数冊借りた。折り目のついた布袋二つに丁寧に本をしまい込もうとしていた時、爽やかなお香の香が感じられた。何気なく目をやると、布袋の内側に縫い付けられた小袋からの匂いだった。
 女の子は、自らに問いかけるように
「もうすぐ春休みも終わりなのに、読めるかなぁ。こんなにかりて。お母さんにしかられないかなぁ」
「しかられないよ」
老婦人は、力をこめて応え、本を仕舞い会釈して帰った。二人の後ろ姿に、豊かな知的環境に暮らす家庭を想像してやまなかった。
 数日後、白檀の香に懐かしさを感じながらご婦人に対応した。見慣れた布袋、沢山お借りしてと、礼を言う姿にあの老婦人の雰囲気と身のこなしを感じ、桃色のカーディガンの女の子の顔を思い浮かべた。
 日本のお姫様たちは、爽やかな香と共に雪深い東北に春をつれてきてくれたのだった。