香・大賞 kaori taisho

第35回「香・大賞」

佳作

『 テラスにて、坐禅。 』
関 夏楠(せき かなん) 18歳 高校生 東京都

 9月に引っ越した先は都心のマンションで、そこには小さなテラスが付いている。テラスと云ってもベランダを少し広げたような4畳ほどのスペースにテーブルと椅子が2つ、申し訳程度に並んでいるだけ。それでもその小さな空間は、私の心をほわんと温める。
 現在高校生の私は、受験勉強真っ最中。今週末に模試を控えているが、一向にやる気は出やしない。スマホを覗けば、勉強も趣味もスマートにこなす同級生たち。目の前に立ちはだかる巨大すぎる壁に、みんなはどのように立ち向かうと云うのだろう……。
 行き詰まった私はテラスに出る。そしてほっと一息ティータイム。と、云いたいところだが、私は坐禅を組む。坐禅。そう、あの坐禅。サンダルも履かずに靴下のまま、椅子の上で目を閉じる。空っぽになった体になだれ込んだ新鮮な空気は、鼻の奥へと通り抜け、口からそろーっと居なくなる。そして感じる、この街の香り。新しくも何故だか懐かしい、くすぐったいような香り。都会の空気は汚いなんて云うけれど、私は清らかに感じる。辺りを見渡せば環八があって工場があるけれど、公園もあって、緑だってあるのだ。
 坐禅と云う、目を閉じ呼吸を感じる行為そのものに、私は惹かれた。仏教の修行という意味合いはない。ただ、信仰ってそれぐらいの心持ちで良いのではないか。今の時代、何か1つのものだけに身を委ねるなんてリスクが高すぎる。自分が信じたいものを、幾つも幾つも心に仕舞い込んでゆく。そうすれば、他人の信じるものも尊重出来る気がする。連日報道される宗教間の争いも、考え方一つで解消されるのではないか……。
 ……早くぅー! 夕飯を知らせる母の声で、ふと我に返る。私の坐禅兼瞑想はいつも、世界情勢にまで首を突っ込んで終わる。だんだんと逸れていった思考。勉強はまた今度でいいか。仄かに香る焦りを残して、私はテラスを後にするのであった。