香・大賞 kaori taisho

第33回「香・大賞」

佳作

『 笹の香りは 』
塩田 陽子(しおた ようこ) 53歳 団体職員 福島県

 大学に進学したとき、私は女子寮に入った。横浜というおしゃれな場所にありながら、寮の中では遠慮なく方言が飛び交い、寒くなるとみんな一斉に綿入れ半纏(はんてん)を着だした。実家からリンゴが届いた、お菓子が届いたという理由で、私たちは毎晩のように友達を招きあい、誰かの部屋に集まっては夜遅くまでお喋りを楽しんだ。
 その中で一番忘れられないのが、新潟出身の友達に届く笹だんごだった。ガムテープをはがすとダンボール箱いっぱいの笹だんご。そして清々しい笹の香り。誰もがふっと懐かしく、郷愁を感じていただろう。寮生は50人。二つづつ配っても十分な数だった。年に数回送られてくるその笹だんごは、おばあちゃんの手作りだという。もっちりとした草餅が、やさしい甘さの粒あんを包んでいて、そのおいしさに私たちは毎回メロメロになった。
 卒業して全国に散らばった私たちは、それぞれ自分の時間が持てる年齢になり、とりわけ仲のよかった6人で、東京で再会しようということになった。同じ釜の飯を食うとはよく言ったもので、顔を見た途端、30年の隔たりは跡形もなく消えてなくなった。夜はホテルの一部屋に集まり、またあの頃のようにみんなでお喋りに忙しくなる。
「自分が親になって初めて、親のありがたさや大変さが分かったよね」
「どんなに子供が心配か分かった」
こんな話をする日が来るなんて、あの頃の私たちに想像がついただろうか。すると新潟出身の彼女が突然
「私、みんなにウソをついてたことがあるんだ。あの笹だんご、本当はお母さんが作ったの。笹だんご作るお母さんなんて、田舎者で恥ずかしいと思ってたから」
しんみりと静かになった部屋で、私たちは同じ思いだった。あの清々しい香りは真直ぐな母の愛。何も言わなくても、そのとき確かに私たちはあの笹の香りを思い出していた。