香・大賞 kaori taisho

第33回「香・大賞」

佳作

『 夫婦合わせて香り一つに 』
東大路(ひがしおおじ) こりさ 54歳 学習塾講師 兵庫県

「ふときみのマフラー巻けば包まれる香り懐かし幾年(いくとせ)こえて」
 この短歌は、ある日何気なく夫のマフラーを巻いた際に感じた思いを歌に詠んだものです。結婚27年になるのですが、そういえば夫のマフラーを巻いたことなどほぼなかったような気がします。
 その日は夫と車で帰宅し立体駐車場に入れる夫を残し私が先に降りました。その際、両手が荷物でふさがっていたので夫がはずして後部座席に置いていたマフラーを手に持ってあげられず、私の首に巻いて降りたのでした。
 巻いた瞬間、最初の一呼吸で、ふわーっと夫の香り、と思われるものが鼻から入ってきて私はたじろぎ息を止めました。日頃首に巻いているマフラーからその人の香りがするのは当然のことなのでしょうが、その時は全く予期していなかったので困惑したのです。
 まずなんといっても、これ以上この香りをかいで、それが嫌な香りだったらどうしよう、という戸惑い。共に暮らしている相手の香りが嫌なものだとしたら困ったことだ……という心配が頭をよぎったからです。
 でも次の瞬間には、ああ嫌な香りではないという印象を得て、私は安心して止めていた呼吸を再開しました。そして次はふうーっと深く吸い込んでみたのです。
 そう、心配することなどありませんでした。夫の香りはどこか懐かしく温かく慣れ親しんだものでした。いつもはあまりにも近くにいてもう意識することのない夫の香りですが、たまたまマフラーを巻いたことによっていわば「再会」したような気持ちになったのです。
 そしてその香りに対する懐かしさはそれが私自身の持つ香りでもあるからなのでしょう。長年連れ添う夫婦は時に荒波も乗り越えつつ、それぞれに持つ香りがいつしか合わされやがて一つになっていくものではないでしょうか。
 そんな思いに一人照れ笑いしながら、車から降りてきた夫の首にマフラーを戻しました。