香・大賞 kaori taisho

第34回「香・大賞」

佳作

『 焼き芋 』
松浦 一穂(まつうら かずほ) 80歳 滋賀県

 秋が深まってくると、近くの小学校から、童謡の「落ち葉焚き」が流れてくる。公園の木々の葉は色づき、落ち葉が積りはじめる。
 私の子供の頃は、戦後の食糧難時代で、毎日芋ばっかり食べていた。
 当時、広場で子供たちががやがや遊んでいると、やおらおじいさんが現れて、落ち葉かきを始める。子供たちも手伝う。芋の焼けた香りが漂い始めると、焚き火の周りに皆集まってくる。歯の抜けたしわくちゃ顔のおじいさんは、にこにこしながら、黒焦げになった焼き芋を焚き火の中から掘り出して、みんなに分けてくれた。
 先日家の前を「いしやーきいも、やきいも」と、焼き芋街宣車のマイクの声を、見事に真似る小学生たちが通り過ぎていった。そうだ、今度2歳の孫娘が来たときには焼き芋を焼いて進ぜようと考えた。公園の吹きだまりには落ち葉は積もっているが、今は落ち葉焚きはご法度である。
 では我がマンションの部屋の中で、直火で焼き芋作りはできないものかと、知恵をめぐらせた。
 「芋を細い鉄棒に串刺しにし、その串を直火の上に橋渡しにして乗せ、串をモーターに連結して回転させながら焼く」という方法が浮かんだ。設計図を描き、ホームセンターに通って部品を購入し、何種類か試作品を作ってみた。試行錯誤の結果、モーターは1分間に3~4回転する6Vギアドモーターに決め、芋と火床(カセットデッキ)との距離は4~5センチにして、30分ほど焼くと、皮は適度に焦げ、中はほっこりとした焼き芋ができあがることがわかった。
 孫娘が来たときには、この機械を使い焼き芋を作って食べさせようと練習に励んでいる。おかげで焼き芋が山のようにでき、70年ぶりに芋ばっかり食べている。
 はたして孫は食べてくれるだろうか。家には焼き芋の香りがしみついてきた。